お子さんが自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持っているとき、「何度言っても聞いてくれない」「口で説明しても理解してくれない」と悩むことはありませんか。一生懸命伝えているのに伝わらないと、「どうしたらいいのだろう」と途方に暮れてしまいますよね。
実は、それは伝え方と情報の受け取り方のミスマッチかもしれません。
今回は、ASDのお子さんに多く見られる「視覚優位性」という特性に焦点を当てます。これは、耳で聞くよりも、目で見た情報の方が、すんなりと頭に入るという、その子の特別な才能です。
1. 認知特性とは? 情報の受け取り方の違い
まず、「視覚優位」を知るために、人間の「認知特性」について簡単に理解しましょう。
脳の情報処理の得意・苦手
認知特性とは、私たちが「目で見る」「耳で聞く」「手で触れる」といった五感から入ってきたさまざまな情報を、脳の中で「整理する」「記憶する」「理解する」能力の個性のことです。
同じ情報を見聞きしていても、人によって「文字や図で見る方が得意」な人もいれば、「先生の声で聞く方が得意」な人がいますよね。この情報の受け取り方の得意・苦手こそが認知特性です。
発達障害の分野では、この認知特性の偏りが大きく現れることが多く、特にASDのお子さんの場合、視覚からの情報処理に優れている「視覚優位」の傾向を持つことが多いのです。
視覚優位とは映像で考えること
視覚優位とは、「聴覚」で取り込んだ音の情報よりも、「視覚」で取り込んだ映像や図、文字の情報の方が、より早く、正確に、深く理解できる特性を持つ人のことです。
視覚優位のお子さんは、何かを考えたり学んだりするとき、その内容を頭の中で映像や写真のように思い浮かべながら処理しています。逆に、次から次へと流れて消えてしまう「言葉」や「音」だけの情報は、頭の中で映像化しきれず、混乱してしまいやすいのです。
2. 視覚優位なお子さんの「得意」と「苦手」
視覚優位という特性が、日常生活や学習においてどのように現れるのか、具体的に見ていきましょう。
〇得意なこと
- 記憶力:一度見た人の顔や場所、地図や経路を覚えやすい。
- 理解力:絵、写真、グラフ、動画など、視覚的に示された指示や情報をすぐに理解できる。
- 学習:図鑑や百科事典など、絵や図が多い本を読むことが得意。漢字も部首や形 で覚えることが得意。
- 表現:絵を描くことや工作など、視覚的な表現活動が得意。
〇苦手なこと
- 聴覚での理解:口頭で次々に指示された内容を理解するのが難しい。途中で忘れてしまう。
- 会話:相手の顔や背景は思い出せるが、会話の内容や話の順序が出てこない。
- 学習:文字だけの文章題や、白黒で動きのない教科書の内容に集中できない。
- 混同:形が似た漢字を間違えてしまうなど、細部の視覚情報処理に混乱が生じることがある。
3. 視覚優位なお子さんへの具体的な支援方法
視覚優位のお子さんをサポートする鍵は、「視覚からの情報を最大限に活かすこと」と「視覚的な刺激を減らすこと」の二つです。
環境調整:「見る情報」を整理する工夫
視覚からの情報収集が得意な反面、その場に必要ではないものまで全て見てしまい、気が散って集中できないという問題が起こりやすいです。
- 学習空間の整理
机の上にはノートのみを出し、必要なタイミングで教科書などを取り出すようにしましょう。 - 教室内の工夫
黒板の周りには、授業に必要な情報以外はなるべく掲示しないようにする。 - 集中空間の確保
ご家庭でも、パーテーションなどで学習スペースを区切り、他の情報が目に入らないように「気が散らない空間」を作ってあげることが、集中力を保つ上で非常に大切です。
伝わる!視覚を活かした具体的な声かけと教材
聴覚での情報処理が苦手なお子さんには、こちらからの声かけも視覚的なツールを組み合わせて行いましょう。
| 困りごと | 伝わる支援の方法 | 導入のヒント |
| 口頭指示を忘れる | チェックリストややることを作成し、文字や絵で手順を上から順番に示します。 | 準備、帰宅後、寝る前など、日常のルーティンを視覚化して壁に貼る。 |
| 曖昧な指示が理解できない | 絵や図、写真 をふんだんに用いた教材や指示書を用意する。 | 白黒ばかりのワークシートではなく、カラフルな色を使って重要な部分を強調する。 |
| 時間の管理が苦手 | 砂時計やタイマーなど、「残り時間」が視覚的に減っていくのが分かるツールを使う。 | 「あと5分だよ」と口頭で言うだけでなく、タイマーの目盛を一緒に見て終了時間を意識させる。 |
| 気持ちの表現が難しい | 気持ちを表す絵カードを用意し、「今、どんな気持ちかな」と指差しで表現してもらう。 | 自分の感情を言葉にする前に、まず視覚的に選択することで、気持ちの整理を促します。 |
支援は「合理的配慮」であり、「特別扱い」ではない
視覚的な情報を環境や教材に多く取り入れ、その他の刺激を取り除くという支援は、決して「特別扱い」ではありません。これは、その子の特性に合わせた「合理的配慮」です。
そして、こうした分かりやすい工夫は、特性を持ったお子さんだけでなく、クラス全体の理解度を高め、全ての子どもにとって快適な学習環境へと変化させる力を持っています。
4. まとめ:専門機関との連携で才能を伸ばす
今回は、ASDのお子さんに多くみられる視覚優位性の特徴と、それを活かすための具体的な支援方法についてお話ししました。
視覚優位という特性は、目から入る情報を映像として処理できる素晴らしい才能です。この才能を活かす環境を整えてあげることで、お子さんは「わかった」「できた」という成功体験をたくさん積み重ね、自信を持って成長していくことができます。
お子さんの発達について、少しでも疑問に思ったり、「うちの子は、目から入る情報の方が得意かもしれない」と感じたりすることがあれば、ぜひ一人で抱え込まずに専門機関へ相談してみてください。専門家と連携することで、お子さんの特性をより深く理解し、その才能を最大限に伸ばすための具体的な方法が見つかるでしょう。


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