お子さんが自閉スペクトラム症(ASD)の特性を持っているとき、視覚優位の特性が注目されがちですが、実はその反対の「聴覚優位」という特性を持っているお子さんもいらっしゃいます。
聴覚優位のお子さんは、目で見たり読んだりする情報よりも、耳で聞いたり、声に出したりする音の情報の方が、より早く、正確に理解できるという特別な個性を持っています。
この記事では、聴覚優位の特性とは何か、聴覚過敏との違い、そしてご家庭で今日から実践できる、聴覚優位のお子さんに合わせた効果的な接し方をご紹介します。
1. 認知特性とは? 情報の「受け取り方」の個性
「聴覚優位」を理解するために、まずは人間の「認知特性」について簡単に理解しましょう。
脳の情報処理の「得意・苦手」
認知特性とは、私たちが「目で見る」「耳で聞く」「手で触れる」といった五感から入ってきたさまざまな情報を、脳の中で「整理する」「記憶する」「理解する」能力の個性とのことです。
同じ授業を聞いていても、「図や文字で見る方が理解しやすい」人もいれば、「先生の声で聞く方が記憶しやすい」人もいますよね。この情報の受け取り方の得意・苦手こそが認知特性です。
発達に特性を持つお子さんは、この認知特性の偏りが大きく現れることが多く、ASDのお子さんでも、視覚よりも聴覚による情報処理に優れているという「聴覚優位」の傾向を持つことがあります。
聴覚優位とは「音」や「言葉」で考えること
聴覚優位とは、目で見たい文字や映像の情報よりも、耳で聞いた音の情報の方が、より早く、正確に理解できる特性を持つ人のことです。
聴覚優位のお子さんは、何かを考えたり学んだりするとき、その内容を頭の中で音や声、リズムのように思い浮かべながら処理しています。逆に、次から次へと流れて消えてしまう「言葉」や「音」だけの情報は、頭の中で整理しにくく、混乱してしまいやすいのです。
2. 聴覚優位と聴覚過敏の違い
聴覚優位について話すとき、しばしば聴覚過敏と混同されがちです。これらは耳に関わる特性ですが、その意味と対応の仕方は全く違います。
聴覚優位:情報の「処理方法」の特性
聴覚優位は、情報を効率よく「処理」する能力の特性です。
- 得意なこと
先生の口頭での指示や説明、音楽、ラジオ、音声教材など、耳から入る情報を理解し、記憶すること。 - 苦手なこと
視覚的な情報や文字を処理すること。
聴覚過敏:音に対する「感覚」の特性
聴覚過敏は、音に対する「感覚」の特性です。
- 特徴
他の人が気にならないような小さな音(時計の秒針、蛍光灯のブーンという音、ざわめきなど)を非常に大きく不快に感じてしまい、ストレスやパニックを引き起こしてしまう状態です。 - 対応
音の刺激を減らす(イヤーマフの利用、静かな環境の確保など)。
聴覚優位と聴覚過敏は同時に存在することもあります。その場合、「聞くこと」は得意でも、「不快な音」には耐えられないという、二重の生きづらさを抱えることになります。ご家族は、この違いを理解し、「不快な音は守り、有益な情報は音で提供する」という両面からのサポートが必要です。
3. 聴覚優位なお子さんへの寄り添い方と具体的な支援方法
聴覚優位なお子さんの才能を伸ばし、生活での混乱を減らすための具体的な接し方と環境づくりのヒントをご紹介します。
伝わりやすい「声かけ」と「音」の活用
聴覚優位の特性を活かし、情報が「耳からスムーズに入る」工夫をしましょう。
- 口頭指示の徹底:指示は口頭でゆっくり、簡潔に伝えましょう。同時に視覚的な刺激(テレビ、おもちゃなど)は減らします。
- 音声教材の活用:リスニング教材、オーディオブック、動画の音声など、音で学ぶ教材を積極的に利用します。
- 音読や復唱の推奨:覚えたいことや課題を声に出して音読させたり、自分の考えを口頭で説明させたりする機会を増やしましょう。自分の声を聞くことが、そのまま学習に繋がります。
- 声かけのリズム:指示やルールを伝える際に、歌やリズムに乗せて伝えることも、聴覚優位のお子さんには効果的です。
苦手な「視覚情報」をサポートする工夫
聴覚優位のお子さんは、文字だけの情報や複雑な図を処理するのが苦手な傾向があります。
- 文字教材の読み上げ:教科書や課題を読む際に、親や支援者が読み上げてあげる、または読み上げソフトを活用します。
- 板書やメモのサポート:黒板の文字を書き写す作業や、メモを取る作業に時間がかかったり、ミスが増えたりする場合は、事前に印刷した資料を提供するなどの合理的な配慮を検討しましょう。
- 質問は口頭で:お子さんの理解度を確認する際も、文字で書かれたテストよりも、「今の説明をあなたの言葉で教えて」と口頭で質問する方が、能力を発揮しやすい場合があります。
環境調整:「聞くこと」に集中できる空間づくり
聴覚優位のお子さんが最も得意な「聞く力」を発揮できるように、「集中して聞ける環境」を整えましょう。
- 雑音の遮断:学習や重要な話をする際には、テレビやラジオを消し、静かな環境を確保します。
- 指示のタイミング:他の人が話している最中や、ざわついている場所で指示を出しても、お子さんは重要な情報と雑音を区別できず、混乱してしまいます。必ず静かな環境で、一対一で目線を合わせて話しましょう。
4. さいごに:専門機関との連携で才能を伸ばす
今回は、ASDのお子さんにみられる「聴覚優位」という特性についてお話ししました。
「うちの子は、もしかしたらこの特性があるかもしれない」と感じたら、それは、お子さんの隠れた才能を見つける大きなチャンスです。聴覚優位という特性は、語学や音楽、スピーチなど、音を扱う分野で大きな力を発揮する可能性を秘めています。
大切なのは、「耳からの情報に強い」というお子さんの個性を活かすことで、成功体験を積み重ねさせ、自信を育んであげることです。
お子さんの発達について、少しでも疑問に思ったり不安に感じたりすることがあれば、ぜひ一人で抱え込まずに専門機関へ相談してみてください。専門家と連携することで、お子さんの特性をより深く理解し、その才能を最大限に伸ばすための具体的な方法が見つかるでしょう。


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