引きこもりの中でも、外部に相談しづらく家族を疲弊させるのが「家庭内暴力」を伴うケースです。
「自分の育て方が悪かったのか」「外に知れたくない」……。そんな思いから救いを求められずにいるご家族へ向けて、現状を打破するためのステップを解説します。
なぜ暴力化するのか
大人のひきこもりにおける暴力は、単なる反抗期とは本質的に異なります。そこには、本人が抱える「言葉にできない苦しみ」が背景にあります。
社会的挫折と「自己責任論」の罠
40代以上の多くは、就職氷河期や過酷な労働環境、あるいは介護離職などを経験しています。社会から脱落したという強い劣等感と、世間の「働かざる者食うべからず」という自己責任論に晒され、本人は自分自身を激しく責めています。その「行き場のない怒り」が、最も身近で自分を受け入れてくれる親や家族へと向かってしまうのです。
コミュニケーションの「ボタンの掛け違い」
親が良かれと思ってかける「いつまでこうしているの?」「少しは外に出たら?」という言葉は、本人にはプレッシャーとなり、否定の言葉として突き刺さります。この恐怖が防衛本能としての攻撃(暴力)に変わるのです。
暴力から脱出した3つの事例
家庭内暴力は、家族だけで解決できるフェーズを超えています。ここでは、外部の支援が入り事態が好転した実例を見てみましょう。
【事例A:相談をきっかけに好転したケース】
45歳の男性は、20年近く自室に閉じこもる生活を送っていました。将来を案じる親が就職の話題を出すたびに激昂し、壁を殴り、家具を損壊するなどの家庭内暴力が常態化していました。
事態を重く見た父親が、ひきこもり専門の訪問団体に相談。支援員が数ヶ月間、決して急かさずドア越しに対話を重ねた結果、本人に発達障害(ASD)の特性があることが見えてきました。
専門医の診断を通じ、本人は「自分が怠けていたわけではなく、脳の特性によって人混みや環境の変化に極端なストレスを感じていたのだ」と、長年の生きづらさの正体を客観的に知ることになります。
自分を責め続けていた心の呪縛から解き放たれたことで、それまでの刺々しさは消え、驚くほど穏やかな表情を取り戻しました。 現在は、自身の特性を考慮した静かな環境のもと、週に数回の軽作業から社会との接点を再生させています。
【事例B:物理的距離が救いになったケース】
55歳の男性は、アルコール依存と重なり、80代の父に暴力を振るっていました。近隣の通報で警察が介入し、そのまま精神科病院へ入院。ここで「物理的な距離をとったこと」が転機となりました。退院後、本人は父と別居して生活保護を受給し、一人暮らしを開始。退院後も適度な距離を置くことで、父子の関係は「たまに会って茶を飲む」程度にまで修復されました。
【事例C:家族会での気付きから安心感につながったケース】
48歳の女性は、母親が持ってくる求人票に激昂し、母の髪を掴むなどの暴力を繰り返していました。母親は地域の「家族会」に参加し、良かれと思って放っていたアドバイスが、実は娘を追い詰めていたことに気づきます。
母親は娘への一切の助言や干渉をやめ、自身の趣味に時間を割くなど「自分の人生」を歩み始めました。
数ヶ月後、母親からの「評価や期待という重圧」が消え、そのままの自分を受け入れられているという「安心感」を抱いた娘は、自らボランティア活動への参加を希望したのです。
家族が今すぐ取るべき「3つの行動」
暴力がある場合、今日からでも意識を変える必要があります。
① 否定的な言動は止めて、暴力の根底を理解する
子供を思うあまり、仕事や将来のことについてあれこれと言いたくなる気持ち理解できます。しかし、そうした否定的な言動は子供を追い詰めるだけです。皮肉や嫌味を止め、本人の言葉に耳を傾けましょう。暴力の根底にある「怒り」「焦り」「苦しみ」、、、そうした気持ちを理解するよう努めるのです。注意すべきは、「耳を傾けること」と「言いなりになること」は全く別だということです。言いなりになることは問題を悪化させます。
② 暴力に耐えることを止める
「自分が我慢すればなんとかなる」と考え、暴力に耐えたり、受け入れたりしてはいけません。問題を最も悪化させると言われています。
これは、暴力に耐えても、その根底にある怒りや焦りは何を解決されないままだからです。
【暴力に耐える続ける=子どもの苦しみは放置され続ける】
ことになり、問題は悪化。結果的に暴力は続きます。
また、暴力を振るわれないようにするには、物理的な距離をとることがいちばんです。子どもと別々に暮らす、支援機関に預けるなど、検討しましょう。家庭に第三者(知人や友人など)を入れることも良いでしょう。
③ 親が先に「外」とつながる
本人が動けないなら、まず親が相談窓口へ行ってください。「ひきこもり地域支援センター」や「精神保健福祉センター」、あるいは地域の「家族会」です。同じ境遇の親と話すだけで、親側の「心の余裕」が生まれ、それが家庭内の空気を変える第一歩になります。
第三者の力を借りましょう
暴力を伴うひきこもりの解決は、短距離走ではなくマラソンです。そして、親が伴走者である必要はありません。親は「一人の人間」としての人生を取り戻し、専門家にバトンを渡す勇気を持ってください。
「助けて」と言うことは、本人を見捨てることではなく、本人と共倒れにならないための「愛」の形です。まずは相談することから始めましょう。
■ ひきこもり地域支援センター
ひきこもりに特化した専門窓口。専門職が状況に応じた支援プランを共に考えてくれます。
■ 精神保健福祉センター
心の健康や精神的な疾患、強い不安を伴うケースに適した専門機関です。
全国精神保健福祉センター長会(全国精神保健福祉センター長会HPより)
■ その他
児童相談所:お子さんが18歳未満の場合は、さまざまな相談にのってもらえます。
警察:身の危険を感じるような場合は、警察に相談するのもひつとの方法です。



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