【大人のひきこもり】社会の変化と「きっかけの変化」

前回の記事では、最新のデータからひきこもりの「きっかけ」や「原因」について考えました。
今回は、コロナ禍以前の「きっかけ」と比較してみたいと思います。
コロナ禍を経て社会の形が変わったことで、ひきこもりの背景も様変わりしています。

目次

「特定の出来事」から「社会情勢」へ

2020年より前の内閣府の調査によると、ひきこもりのきっかけは比較的はっきりした「出来事」であることが多かったと言えます。

  • 学校や職場でのトラブル
    いじめ、パワハラ、仕事や受験の失敗。学校や職場になじめない。
  • 人間関係の挫折
    失恋、友人とのトラブル。
  • 不登校からの継続
    学生時代に不登校となり、そのままひきこもっている。

このように「特定の出来事」をきっかけに、ひきこもりになるパターンでした。また、コロナ禍前は対面での付き合いが当たり前だった分、「人との関わりの中での傷ついたこと」がきっかけとなり誰にも会わなくて済む「家」というシェルターに逃げ込むケースも多く見られました。

【表:データ比較】コロナ禍の前後で考える特徴

当時の調査(内閣府など)を振り返ると、現代とは異なる特徴がはっきりしています。

項目コロナ禍前(〜2019年頃)コロナ禍後(2020年〜)
主なきっかけ職場での人間関係、仕事の失敗、いじめ、不登校退職、コロナ流行そのもの、人間関係、病気
きっかけの性質特定の出来事による挫折社会情勢の変化による喪失
男女比の変化男性が圧倒的に多い傾向女性の割合が急増(顕在化)
外出の頻度ほとんど外出しない「閉じこもり」コンビニや趣味の外出はする「広義のひきこもり」も増加傾向

調査データから読み解く「3つの新事実」

1. 「コロナ」がきっかけの上位に

最新の調査では15歳〜39歳のきっかけの1位は「新型コロナの流行」です。
40歳〜69歳のきっかけ1位は「退職」ですが、2位に「新型コロナの流行」がランクインしています。
実に4〜5人に1人がコロナを直接の理由に挙げているのです。 これは、以前のような「本人の弱さ」や「家庭の問題」ではなく、ウイルスという抗えない外部要因が生活を奪ったことを示しています。

2. 「退職」の理由に隠れたコロナの影響

1位の「退職」についても、コロナ禍による倒産や雇い止め、あるいはテレワークへの移行に伴うコミュニケーション不全が含まれていると考えられています。「普通に働いていた人が、社会の仕組みが変わったことで居場所を失った」というのが、現代のひきこもりのリアルな姿です。

3. 女性のひきこもりが「見えてきた」

これまでの調査では男性が目立っていましたが、女性の割合が増えていることがわかっています。令和4年の内閣府の調査で、40歳~64歳層は女性が52.3%と半数を超えており、女性の割合が大幅に増えていました。 コロナ禍で家事や育児の負担が増えたり、パートなどの仕事がなくなったりしたことで、家の中から出られなくなった女性たちが、浮き彫りになりました。

コロナ禍が変えた「ひきこもりのカタチ」

コロナ禍はひきこもりのきっかけにも大きな影響を与えました。以前のような「はっきりした出来事」がなくても、いつの間にか部屋から出られなくなるケースも増えたと考えられています。

① 「正当化」が心の壁を厚くした

コロナ禍では、国を挙げて「外に出ない」「人と会わない」ことが推奨されました。 それまで「外に出なきゃ」と焦っていた人にとって、これはある種の「安心感」を与える結果になりました。

「家にいてもいいんだ」という社会からの公認が得られたことで、ひきこもる生活が習慣化し、いざ制限がなくなった時に、外に出られなくなってしまったのです。

② デジタル化による「見えない孤独」

仕事がテレワークになり、授業がオンラインになりました。 これは一見、ひきこもりの人でも社会とつながれるチャンスに見えます。しかし、実際には逆の作用もありました。

  • 画面越しでは「空気」が読めない: 雑談がないため、相手がどう思っているか不安になる。
  • 家から出る理由がなくなる: コンビニすら行かず、スマホ一つで完結する生活。

「誰とも会わなくても生きていける」という環境が、結果として社会との距離を決定的なものにしてしまいました。

③ 「SNSの普及」と自信の喪失

今の世の中は、常にSNSなどで他人のキラキラした生活が目に入ります。 コロナ禍で先が見えない不安の中、他人と比較して「自分は何をやっているんだろう」と自信を失ってしまう人が急増しました。

「大きな失敗をしたわけではない。でも、なんとなく自信がなくなって、気づいたら動けなくなっていた。」 これが、コロナ禍以降に多いと言われています。

④ 絶たれた「外とのつながり」と家庭内での女性の孤立

コロナ禍で最も大きな打撃を受けたのは、女性が多く働く対面サービス業(飲食・観光・小売など)でした。これにより、仕事という「外の世界との接点」が突然失われました。

  • 職域の喪失による社会的分断: パートやアルバイトが雇い止めになり、唯一の社会復帰の場やコミュニティを失ったことで、経済的な不安とともに精神的な居場所も奪われてしまいました。
  • 家庭内負担の限界突破: 外出自粛により、家事、育児、介護といった「ケア労働」がすべて女性一人に集中しました。家族が常に家にいることで自分の時間は消滅し、家庭という密室の中で心身ともに限界を迎えてしまったのです。
  • 「助けて」が言えない孤独: 「家族を支えなければ」という責任感から、自分の苦しさを後回しにしてしまいがちです。社会との接点がなくなったまま家庭内に閉じ込められた結果、再就職への気力さえも失ってしまうケースが急増しています。

一人でやらなくていい

コロナ禍がもたらした「見えない孤独」は、私たちの心に深く静かに浸透しました。特に外との繋がりを失い、家庭の中で限界を迎えている方にとって、現状を変えるには想像以上のエネルギーが必要です。

もしあなた自身が苦しんでいるなら
もし大切な家族が苦しんでいるなら

一人で悩んだり抱えたりしないでください。一人の力で元に戻そうとしなくていいのです。
ほんの少しだけ、誰かにその重荷を預けてみる。そんな小さな勇気が、閉ざされた扉を開ける鍵になります。

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