「なぜ、外に出られなくなってしまったのか」
本人が一番その答えを探し、苦しんでいるかもしれません。最新の調査結果を紐解くと、ひきこもりは単一の事件で起きるものばかりではなく、社会情勢や日常のわずかな変化が積み重なった結果であることが見えてきます。
今回は内閣府の調査を基に、大人のひきこもりの「きっかけ」と、その「原因」ついて解説します。
世代で異なる第1位だけど・・・
最新の調査では、ひきこもりになった「最も大きな理由」が、世代ごとに鮮明な差として表れています。
【若年層(15歳〜39歳)】のきっかけトップ4
若年層において、最も大きな理由として挙げられたのは「新型コロナ」の影響でした。
- 1位:新型コロナウイルス感染症が流行したこと(25.7%)
- 2位:(その他(17.5%))
- 3位:妊娠したこと(14.5%)
- 4位:病気(10.5%)
若年層の約4人に1人がコロナ禍を最大のきっかけとして挙げています 。社会に出る、あるいはキャリアを築く大切な時期に活動を制限されたことが、深刻な影響を及ぼしたことがわかります。
【中高年層(40歳〜64歳)】 のっきっかけトップ3
中高年層においては、生活の基盤である仕事の変化が、社会との接点を絶つ大きな要因となっています。
- 1位:退職したこと(32.3%)
- 2位:新型コロナウイルス感染症が流行したこと(23.1%)
- 3位:病気(16.0%)
中高年層では「退職」が3割を超えて最多です 。長年社会的な役割を担ってきた層にとって、離職はアイデンティティの喪失に直結しやすく、そのままひきこもり状態へつながるケースが目立ちます。
世代を超えて影を落とす「コロナ禍」の影響
このように、世代によって第1位の理由は異なりますが、共通して言えるのはコロナ禍がもたらした影響の大きさです。若年層では最大の引き金となり、中高年層でも退職に次ぐ第2位の理由として約2割以上にのぼっています 。パンデミックという不可抗力が、世代に関係なく「外に出るきっかけ」を奪い、ひきこもりのきっかけになった現実は無視できません。
統計には表れない「きっかけ」のリアル
データ上では「コロナ」や「退職」という言葉でくくられますが、当事者の実感としては、既存の選択肢では説明しきれない複雑な経緯があります。
蓄積された違和感と「じわじわ型」の移行
コレといった明確な出来事がなく、日常生活から少しずつひきこもっていたパターンもあります。
- 「気づいたら数ヶ月が経過していた」境界線の喪失
最初は「少し体調が悪いから数日休もう」という軽い気持ちだったはずが、一日休むと翌日はさらに外出への心理的ハードルが上がり、それを繰り返すうちに、気づいたときには外の世界が遠い場所に感じられていたというケースです。 - 「理由はないけれど、社会に取り残されている気がして」という疎外感
周りの友人が結婚したり、昇進したり、人生のステージを進めている一方で、自分だけが足踏みをしている感覚に陥ります。「今の自分を誰かに見られたくない」という恥の意識が、外の世界との接点を断つきっかけになります。
複数の出来事が重なる
一つひとつは耐えられたはずの出来事が、重なり合うことでキャパシティを超えてしまうケースです。
- 「複数が同時に起きて」キャパオーバーの発生
仕事でのミス、親の介護の始まり、自身の体調不良など、複数のストレスが同時期に押し寄せた際、どこから手をつければいいか分からなくなり、思考停止の末に部屋に閉じこもってしまうことがあります。 - 「期待に応え続けることへの疲れ」燃え尽き症候群
「責任ある立場」や「家族の期待」に応えようと走り続けてきた人が、ふとした瞬間に糸が切れたように動けなくなるケースです。アントレプレナーやリーダー層にも見られる、過度な責任感が裏目に出た形と言えます。
過去の傷が表面化するケース
以前から抱えていた「原因」が、社会的な変化を機に噴き出す形です。
- 「一度レールを外れたことへの恐怖」社会復帰への不安
過去に一度でも挫折や中退を経験している場合、再挑戦に対する過度な恐怖心が、外出を阻む理由になります。特に「一度失敗したら終わり」という社会の空気感に敏感な人ほど、この傾向が強まります。 - 「相談できる相手の欠如」孤立の深化
「悩みは自分一人で解決すべきだ」という強い信念が、誰にも助けを求められない状況を作り、結果としてひきこもるしか選択肢がなくなるという理由です。
「きっかけ」は最後の一滴にすぎない
「きっかけ」について取り上げてきましたが、「きっかけ(トリガー)」と「原因(バックグラウンド)」を切り分けて考えることも大切さです。それは、きっかけがひきこもりに至る直前に起きた「出来事」を指すからです。
- 新型コロナによる自粛
- 退職や職場不適応
- 複数の出来事が重なった瞬間
これらはあくまで「最後の一押し」に過ぎません。すでに水が並々と注がれたコップに、最後の一滴が落ちたことで、溢れ出してしまったということです。
「原因」はコップに溜まった水(背景)
本当に向き合うべきは、なぜコップが満杯だったのかという「背景」です。調査でも、社会生活を円滑に送れなかった「原因」として、多くの方が内面的な生きづらさを挙げていることが分かります。
自分自身のこと
- 人づきあいが苦手(15-39歳: 47.7% / 40-64歳: 29.5%)
- 何事も否定的に考えてしまう(15-39歳: 32.5% / 40-64歳: 16.6%)
- 悩みや不安を相談できない(15-39歳: 27.4% / 40-64歳: 19.6%)
家庭や職場の環境
- 人づきあいが苦手(15-39歳: 47.7% / 40-64歳: 29.5%)
- 何事も否定的に考えてしまう(15-39歳: 32.5% / 40-64歳: 16.6%)
- 悩みや不安を相談できない(15-39歳: 27.4% / 40-64歳: 19.6%)
長年蓄積されたこれらの「原因」という名の水が、何らかの「きっかけ」で溢れ出してしまった。これがひきこもりの真の構造なのです。
理由を責めず、背景にある荷物を下ろす
ひきこもりを解決しようとする時、つい「なぜ?」ときっかけを問い詰めてしまいます。しかし、特に理由がはっきりしない、あるいは「ジワジワ」と状態が悪化した人の場合、本人も「理由がないのに動けない自分」を責めて立ち止まっています。
大切なのは、過去のきっかけを問うことではなく、「今、コップから水が溢れていて、とても苦しいのだ」という現在の状態を、周囲も本人も認めることです。
以前取り上げた「8050問題」や「9060問題」も、こうした「きっかけ」から始まり、背景にある「原因(生きづらさ)」が解消されないまま時間が経過した姿だと捉えることもできます。きっかけが何であれ、当事者やその家族は苦しい状況だと思います。きっかけを責めるのではなく、背負い続けてきた「原因」という重い荷物を、少しずつ一緒に下ろしていくことから始めてみませんか。




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